はじめに
今回は、茶会の際に活ける季節の花についてご紹介していきます。茶室の花は古来より亭主が心を込めて活けるものとされてきました。昔の茶人は、沢沿いの山道を分け入り、野趣に富んだ花を見つけては採取して沢の流れに挿し、帰りにがけに集めて濡れ菰に包んで持ち帰り、茶室に活けていました。
■茶会にふさわしくないとされる花
野山に咲いている野趣に富んだ花であれば、どのような種類であっても茶花として茶室に活けて鑑賞するに堪えるものだと思います。ただし、古来より茶道において禁花とされてきた花があります。一応常識として覚えておくと良いでしょう。
・千利休の伝書に記されている禁花
「花入れに入れざる花は、沈丁花(ジンチョウゲ)、シキミ(お仏壇に飾る花)、鶏頭の花、女郎花(オミナエシ)、河骨(コウホネ)、金銭花(キンセンカ)、仙靈花(センレイカ)」とあります。
他に、つつじ、茶の木の花、荻(おぎ・ススキ)、ザクロ、鬼アザミ、桔梗なども禁花とされていますが、桔梗や女郎花(オミナエシ)などは秋の七草として茶室に活けられることがあります。
・元禄期に記された古今茶道全書に記されている禁花
「季節外れの花、をくれ花、かえり花、これを嫌う故に記す」という記述があります。つまり、季節と関係ない花や、花の盛りを過ぎた遅れ花などは好ましくないといわれています。
「葉のなきものには、かり葉をすべし、葉なきを嫌ふ、さりながら、梅、桃の類、実を花の代に見るもの、梅もどきの類は葉なき吟味なし、是また葉なきはずのものなり」とあります。簡単に言うと、「葉のない枝には葉をかりてきて付けなさい。ただし、梅や桃はそもそも花の頃に葉がないのだから、そのままが自然で良い」ということでしょう。
また、「一花一葉、四花四葉、六花六葉の偶数を嫌ふ」とあります。この辺りは、実際に花を活ける回でくわしく解説したいと思います。
■季節の珍花としてよろこばれる花
茶室に活ける花には、数えきれないほどの種類があります。ここでは茶室に活けると珍花としてよろこばれる花をいくつかご紹介します。
・春の茶会で珍花としてよろこばれる花
迎春花(ロウバイ)、金縷梅(マンサク)、木瓜(ボケ)、辛夷(コブシ)、木蓮(モクレン)、杏花(アンズ)、一人静(ヒトリシズカ)、野甘松(カノコソウ)、金糸梅(キンシバイ)
・夏の茶会で珍花としてよろこばれる花
旋花(ヒルガオ)、水葵(ミズアオイ)、夏枯草(ウツボグサ)、蛍袋(ホタルブクロ)、剪秋羅(センノウ)、立浪草(タツナミソウ)、土用藤(ドヨウフジ)、木槿(ムクゲ)
・秋の茶会で珍花としてよろこばれる花
葛花(クズノハナ)、八代草(ヤツシロソウ)、鷺草(サギソウ)、地楡(ワレモコウ)、小車 (オグルマ)、芙蓉(フヨウ)、玉毬花(マツムシソウ)
・冬の茶会で珍花としてよろこばれる花
山茶(ワビスケツバキ)、冬至梅(トウジバイ)、磯寒菊(イソカンギク)
まとめ
今回は、茶室に活ける花にスポットをあててご紹介してきました。基本的に茶室に活ける花に決まりがありません。山から摘んできた野趣に富んだ花を亭主みずからが心をこめて活けることがもっとも大切です。
利休の伝書や元禄期に記された古今茶道全書に記されている禁花についても知識として知っておくと良いでしょう。「禁花」にしても「珍花」にしても、昔の書物に記されているだけで何やら値打ちがありそうです。