近年、日本のジャズシーンが元気いっぱいなのをご存じですか?
今回は1960年代からの日本のジャズの歴史を簡単にたどったうえで「なぜ今ジャズが面白いのか」をご紹介しましょう。
日本のモダンジャズ全盛期
明治時代に日本にやってきたジャズは、幾度かのブームを起こしました。1960年代初頭に始まったモダンジャズブームは、サックスプレイヤーの渡辺貞夫さんらを旗手としたムーブメント。
これに刺激された若き才能たちも、次々と頭角を現し始めます。ジャズ喫茶が多数開店し、店内には一心不乱にジャズを聴く若者の姿がありました。
ラジオ局の前で、ジャズ番組の録音終了を待つ若い女性たちがたむろする姿は、現在のアイドルの追っかけと変わらなかったそうです。
ビートルズの出現とジャズブームの衰退
1966年、ビートルズの日本公演は社会現象となりました。当時を振り返り、あるジャズメン(ジャズプレイヤー)はこう語ります。
「それまで、ジャズは一番格好良い音楽だった。ビートルズが現れてから、ジャズは一番じゃなくなってしまったんだ」
もちろんこれだけが理由ではないのですが、ジャズブームは徐々に衰退していきました。
ブーム後のジャズメンたち
70年代後半~80年代にかけて、ジャズやロック、R&Bなどを融合させた音楽であるフュージョンが大流行しました。
多くのジャズメンがこれに進出し、ジャズを知らない人々にも熱い支持を得たのを、リアルタイムでご存知の方も多いことでしょう。
音楽業界の強力な裏方となる人もいました。
曲の構造やコードを瞬時に理解し演奏する技術を持つジャズメンたちは、有名アイドルやポップスミュージシャンのバックバンド・レコーディングメンバーなどとして、その手腕を遺憾なく発揮したのです。
本場のジャズと対峙すべく渡米したり、日本人ならではの感性を生かしたオリジナル曲を演奏したりと、ひたすらジャズにこだわり続ける人もいました。
60年代に花開いたジャズメンたちは、進む道は違っても、より良い音楽を求めて邁進し続けたのです。
ジャズへの回帰、そして若き才能の出現
ジャズとは少し離れた道をたどったジャズメンたちも、そこで得た経験を糧にして、再びジャズに帰ってきました。
ギタリストの渡辺香津美さんはずばり「ジャズ回帰」を掲げたライブ活動も行っています。
・あの頃のジャズメンたちが帰って来た!
直居隆雄(g) 豊富な知識と経験を、後輩のみならずリスナーにも伝えてくれるライブが魅力
渡辺貞夫さんは現在85歳、チケットが瞬間的に売り切れてしまうほどの人気は不動です。
同じく85歳のギタリスト中牟礼貞則さんは今も奏法の研究を続けつつ、すさまじい勢いでライブを行っています。
「大学生ギター三羽烏」と呼ばれ、後にフュージョンでも大人気を誇った増尾好秋さんは71歳。アメリカに住まいを構え、数年前から年に2回の日本ツアーを展開しています。
同じく71歳で「三羽烏」の一人である直居隆雄さんはスタジオミュージシャンとして大活躍された後、現在はジャズに専念。
「和」のジャズを追求したベーシストの鈴木良雄さんは72歳にして、自身のバンドとともに日本全国を飛び回っています。
70代現役ジャズメンは他にもたくさん。ビートルズ世代の60代も、元気溌剌です。
・子世代のジャズメンたち
奥平真吾(ds) ニューヨークでも大喝采を浴び凱旋帰国した、日本のナンバーワンドラマー
現在40~50代。若く多感な時期に、音楽とその制作環境が激烈な勢いで進化するのを体験した世代です。
CDやポータブルオーディオプレイヤーの登場によって24時間音楽漬けになったのは、この年代あたりからでしょう。
そんな中でジャズを選んだ彼らは、なかなかの曲者ぞろい。
親世代に比べ渡米しやすい環境になったこともあり、その多くが本場での経験を積んでいます。
・孫世代のジャズメンたち
永武幹子(pf) 技術とセンスがあらゆる層から絶賛されている、今一番注目の若手
10~30代。近年、各音楽大学にて「ジャズコース」が次々と設置されているのをご存知でしょうか。
昔から大学にはジャズサークルがたくさん存在したものの、学科(コース)として正式に設置されるようになったのは、ここ20年以内のことです。
この少子化時代にもかかわらず、ジャズの道を目指す若者の増加があるのかと思うと、期待がふくらみます。
・三世代、丁々発止の演奏に大興奮!
増尾好秋さんのバンド『MAGATAMA』には三世代が集結
左から 永武幹子(pf)、増尾好秋(g)、塩田哲嗣(b)、北井誉人(ds)
現在演奏されているジャズは、少人数で即興演奏を繰り広げていくモダンジャズタイプのものが主です。
世代を超えたプレイヤーたちが互いの息遣いを読み、アイコンタクトを取りつつ、緊張感と共に展開していく一期一会のフレーズ…これに感嘆し酔いしれるのは、ジャズならではの楽しみでしょう。
多くのベテランが若手との共演を積極的に行い、自身が刺激を受けるとともに、後輩の育成にも奮闘しています。
60年代ジャズブームをけん引してきたベテラン勢。限りない可能性に満ちた孫世代の若者たちと、中堅になった子世代。
こんな面白い組み合わせの演奏が聴けるのは、今この時代だからこそです。
あなたも、この貴重な瞬間を体験してみませんか?
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